研究紹介/Study
パーミアビリティからみた住宅地空間評価に関する研究
平成23年度~平成25年度 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)23560744

“パーミアビリティ”って何?
両脇に塀が広がり続ける道……なんだか味気ないと思いませんか。住んでいる人の気配を感じられないまちを歩くのはつまらないだけでなく、夜1人で歩くのだって嫌ですよね。
でもあなたも含め、防犯やプライバシー保護の為に家の前に塀を立てたいと思うのが人の心。自分が率先してオープンな住宅にできないのも事実です。
そんな防犯やプライバシーを維持しながらも美しいまちなみを作る考え方があります。それが“パーミアビリティ”です。
パーミアビリティとは「様々な場所へ移動しやす街路ネットワークを構築したり、見通しがよく街路を歩く事が楽しくなるような工夫を施すなどをして、道路を安全にする」考え方のことです。
そんな魅力的なパーミアビリティ……実はまだ本当に安全に使えるものなのかわかっていません。そんなことから、私たちはパーミアビリティの研究を始めました。
パーミアビリティ指標の抽出
本研究の軸となるパーミアビリティの指標をCPTEDの4原則およびA・コールマンの住宅設計ガイドをもとに
・監視性 (日常生活において人の目が行き届くようにする)
・接近性 (犯罪行動を限定して、住宅への接近を妨げる)
・領域性 (アプローチ空間を美化して、領域を明確化する)
・防御空間(人目の届かない道路等に対して備える)
の4分類からなる14項目を抽出しました。
この指標を用いて、多摩田園都市8地区の住宅地を対象として住宅防犯性能の評価を行いました。

前面道路から見通しづらい住宅が広がるだけで、まちは閉鎖的になってしまう
住宅防犯性能の評価を利用して、それぞれの関係性を相関分析により調べました。その結果、
①前面透過不良と隣棟透過不良・庭遮蔽
②庭遮蔽と玄関視認不良・窓視認不良・後部露出
に強い関係が見られました。
これは「前面道路から見づらい住宅が多いまちには、“隣棟との見通しが悪い住宅”や“玄関・居間等の窓を街路から見ることができない住宅”も多く見られる」ということ。
このように街路から視認できない住宅が広がってしまうと、まち全体が閉鎖的な印象を与えてしまうと考えられます。

開かれた住宅は、犯罪者に狙われにくい

住宅防犯性能の評価と犯罪発生実態との関係性を調べました。
その結果、
①前面透過不良・隣棟透過不良・庭遮蔽と犯罪数
②手入不良と侵入
の間に強い関係が見られました。
これは“街路から玄関を視認できるような住宅では犯罪が起こりにくい”ということ。よく見通せる開放的な住宅は犯罪者に狙われにくいといえます。
また、門扉や庭木等の手入れがされているまちは、侵入盗犯罪者に狙われにくいとも考えられます。
開かれた住宅だけではない。庭で何かをする家も犯罪者は嫌います
住宅の見え方だけでなく、庭・街路での行為と防犯性の関係も調査しました。すると
①ガーデニング・パーティー等・玄関演出・シンボルツリーと犯罪発生実態
②特になしと非侵入
との間で強い関係が見られました。
これは庭での行動をすると犯罪が起こりづらい。また庭での行為を行わない住宅は犯罪が発生しやすくなるということ。つまり、住宅周辺の行為は犯罪の抑止に繋がると考えられます。

6つの住まいの工夫
これまでの結果をもとに、防犯に効果があると考えられた監視性・領域性を踏まえ、住まいの工夫を6つの作成しました。

さらに、
①工夫をどの程度重要と考えるか
②工夫をどの程度許容できるか
の2項目をアンケートにて調査しました。

「工夫の重要性」項目では、全ての工夫において「非常に重要」「やや重要」と回答した割合が55%以上でした。

許容性は工夫2以外の項目で「取り入れたい・取り入れている」「取り入れてもよい」と回答した割合が55%以上でした。
では何故住まいの工夫は受け入れられないのでしょうか。アンケートでは許容性と併せて、受け入れられない理由も伺いました。

工夫1~工夫4を取り入れたくないと考える理由として「プライバシーを守れないから」と回答する割合が高いという結果がわかりました。
監視性に関する住まいの工夫(特に居間や食卓などの家族団欒の部屋が見られるもの)を住宅地の計画条件として導入する際にはプライバシー保護との均衡を保つことに留意すべきとがいえます。
工夫5については「敷地に余裕がないから」が最も高い割合。その他の回答でも「街路と敷地に高低差があるから」や「経済上の理由」といった敷地や経済上の制限によるものが多く見られました。
計画をする際にこの問題をどのように取り除くかが課題となってしまうでしょう。
工夫6については「車上荒らし等から車を守りたいから」の回答率が最く、その他の回答では「不在がばれるから」という理由が多く挙げられました。
私たちが考える“パーミアビリティ”の姿
防犯・コミュニティ回復を意図したパーミアビリティに溢れたまちは
・前面道路や隣地側に対し閉じていない住まい
・街路から玄関を視認できる住まい
・庭において人々の交流が行われる住宅
で構成されるものと考えました。
本研究では上記の観点から6つの住まいの工夫を作成した。今後、開放性とプライバシーの保護の程よい均衡はどの程度であるか、また、敷地上と経済上の制限をいかに取り除くかの課題を詳細に検討する必要があります。
謝辞
現地調査、アンケート調査に協力いただいた対象地区の自治会役員及び関係者の方々、居住者の皆様に深く感謝いたします。また、行政資料を提供して頂いた横浜市、川崎市、町田市、大和市の関係者に謝意を表します。
最後に、本研究は平成23~25年度科学研究費補助金(基盤研究(C))の助成を受けて行ったものです。ここに記して謝意を表します。
© 2013 Amano lab.